2024年9月の自民党総裁選出馬における小泉進次郎氏の解雇規制緩和発言について
2024年9月6日に行われた自民党総裁選の出馬会見で、にわかに注目を浴びた小泉進次郎氏の「解雇規制の緩和」という言葉ですが、私は非常に違和感を覚えました。
この発言の中身についての要旨は以下のとおりでした。
しかも、ターゲットは大企業における解雇規制の緩和ということのようです。
- 働く人の賃金が上がらない根本的な理由は優秀な人材が成長分野に流れていかないことにあります。
- 出番さえあれば能力や個性を発揮できる人をベンチに座らせておく、試合に使わない、今の日本に一人も疎かにする余裕はありません。社会全体で新しい分野のスタットアップや中小企業に人材が流れていく仕組みを作ることこそ、究極の成長戦略です。
- その上で成長戦略の本丸として解雇規制の見直し(緩和)が必要です。
- 理由は、働く人が業績の悪くなった企業や居心地の悪い職場に縛り付けられる今の制度から新しい成長分野やより自分に合った職場で活躍することを応援する制度へ変えたいということです。
- 解雇に際してはリスキリングなどの要件も企業に課す。
この発言内容について、皆さんはどのように思われますでしょうか?
そもそも解雇というのは、あくまで人事権をもつ会社側が従業員の雇用を打ち切ることを意味します。働く人が業績の悪くなった企業や居心地の悪い職場に縛り付けられる仕組みではありません。
解雇には、いわゆるリストラに相当する整理解雇、普通解雇、懲戒解雇、諭旨解雇の4つがありますが、労働者保護の観点に立って企業が恣意的に解雇を行わないように、労働契約法や労働基準法によって実施可能な要件や手続き等のルールが定められています。
これは、日本における労働市場の実態や国民の生活を守るといった視点からも当然といえるでしょう。
しかしながら、小泉氏は解雇規制を緩和して大企業が解雇しやすいようにすべきであると訴えたわけです。明言はしませんでしたが、彼の発言内容から推察するに整理解雇の要件緩和だと思います。
これによって、大企業から成長分野のスタットアップ企業や中小企業に人材が流れていきやすくなり、そういった企業の活性化が図られるということのようですが、理屈の上でおかしいと言わざるを得ません。
そもそも、今でも従業員は自由に離職を申し出て転職することができる仕組みになっていますし、実際20代~30代の離職率は高い水準で推移しています。解雇されなければ転職できないわけではありません。本当に魅力的な職場があるなら、従業員は自分から進んで転職するはずなのです。
それと、実態として捉えると、整理解雇される従業員の多くは40代後半~50代の方々であり、こういった人たちをスタートアップ企業や成長産業の会社が受け入れてくれるのかは正直疑問ですし、過去に整理解雇された方々をそういった会社が積極的に受け入れたというデータも存在しません。
また、リスキリングという言葉は〝学び直し〟ということになるわけですが、40代後半~50代の方々にとって次の職場が決まっていない段階で何を学んだらよいのかも検討がつきませんし、精神的にもかなりきついといえます。特にこれまでと全く異なる職種でのスキルや専門性を身に着けることは容易なことではないのです。
会社が生き残りをかけて既存事業の見直しをはかる上で社員がリスキリングを行うことの重要性は理解できますが、このような言葉を安易に持ち出して整理解雇しやすくするといった考え方は間違っていますし、サラリーマンを馬鹿にしていると言わざるを得ません。
以前から経営者団体は従業員の首を切りやすくしたいために解雇規制の一層の緩和を主張してきましたが、今回の小泉氏の論法は、経営者側の意向を汲み取った〝ごまかし〟のものなのか、それとも本当に世の中の実態を理解していないことによる発言なのか、その当たりは不明です。
経済協力開発機構(OECD)が2019年、解雇の際の諸条件を国際比較した結果をみると、日本における「正社員の解雇のしやすさ」は37カ国中11位であり、解雇規制が強すぎるわけではありませんし、解雇規制についていえば、私は現状のままで十分だと考えています。
1985年に労働者派遣法が制定され、その後2000年代以降、規制緩和を進めたのが小泉氏の父の純一郎元首相やブレーンの竹中平蔵氏でしたが、それによって今ではほとんどの職種で派遣人材の受け入れが可能となっていますし、バブルが弾けた後の失われた30年間で派遣人材も含めた非正規雇用の割合は2割から4割へと膨れ上がってします。その結果として、政府が補助金やら色々と政策を打ち出して実行するも少子化対策が思うように効果を上げていないのも事実なのです。
その上、今度は非正規雇用の割合が増えすぎたことによる対処療法として、また派遣会社の利益拡大を図る意図でもって「同一労働同一賃金」みたいなおかしな法整備を行いましたが、本質的な部分でいえば、今後の経済政策としては、正社員の割合を高めていく方向へもっていくことが重要だと考えています。
少子高齢化が進む中で、既にその方向へシフトしている大企業も増えてきましたが、その割を食っているのが中小・中堅企業といえるでしょうね。何とかしなければならない課題です。