人材紹介会社の功罪について
厚生労働省のホームページに掲載されている資料によると、「新規学卒就職者(2020年3月卒業者)に関する就職後3年以内の離職率」を見てみると、以下のとおりです。
2020年といえば、新型コロナウィルスが猛威をふるいだした年です。
この中で留意すべきは、事業所規模が100人以上であっても3年以内に30%以上、1000人以上ところでも26%程度、すなわち4人に1人が離職しているという点です。
団塊世代の人たちが職場を離れ、少子高齢化の進展を背景として売手市場になっていることもあって、若い人たちの離職率は思った以上に高いということが事実として読みとれます。
■ 新規学卒就職者の就職後3年以内離職率 ※ ( )内は前年比増減
【 中学 】52.9% (▲4.9P) 【 高校 】 37.0% (+1.1P)
【短大等】42.6% (+0.7P) 【 大学 】 32.3% (+0.8P)
■ 新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率 ※ ( )内は前年比増減
事業所規模 | 高校 | 大学 |
5人未満 | 60.7% (+0.2P) | 54.1% (▲1.8P) |
5~29人 | 51.3% (▲0.4P) | 49.6% (+0.8P) |
30~99人 | 43.6% (+0.2P) | 40.6% (+1.2P) |
100~499人 | 36.7% (+1.6P) | 32.9% (+1.1P) |
500~999人 | 31.8% (+1.7P) | 30.7% (+1.1P) |
1,000人以上 | 26.6% (+1.7P) | 26.1% (+0.8P) |
■ 新規学卒就職者の産業別就職後3年以内離職率のうち離職率の高い上位5産業 ※ ( )内は前年比増減、「その他」を除く
高校 | 大学 | ||
宿泊業, 飲食サービス業 | 62.6% (+2.0P) | 宿泊業, 飲食サービス業 | 51.4% (+1.7P) |
生活関連サービス業, 娯楽業 | 57.0% (▲0.2P) | 生活関連サービス業,娯楽業 | 48.0% (+0.6P) |
小売業 | 48.3% (+0.7P) | 教育, 学習支援業 | 46.0% (+0.5P) |
教育,学習支援業 | 48.1% (▲5.4P) | 医療,福祉 | 38.8% (+0.2P) |
医療,福祉 | 46.4% (+1.2P) | 小売業 | 38.5% (+2.4P) |
念のため、コロナ下ではなかった2016年(平成28年3月卒業者)のデータも見てみましたが、離職率のデータとしてはほとんど同じ状況でした。
ところで、これまで勤めていた会社・法人を辞めて転職する人たちの多くは新たな就職先を探すことになりますが、求人誌のWebサイト化が進み始めた2000年以降は人材紹介会社に登録して転職先の会社を紹介してもらうケースが増えてきましたし、特に2010年以降はその傾向が強まっています。特に今の20代や30代の若者はスマホ世代であり、Webを利用した就活が主流になってきています。
いうまでもないことですが、人材紹介会社の数も、業界での参入障壁が低いことも相まって、この10年~20年の間は飛躍的に伸びている状況です。
そういう意味では、転職を考える人たちにとってはありがたい環境になってきたといえるわけです。
問題は、このことが企業へどういった影響を与えているかという点です。
簡単にいってしまえば、人材紹介会社を介した中途採用が多くなると採用費が膨れ上がってくるという問題です。さらに、採用費が増大しすぎると、そのしわ寄せが在籍社員の賃上げやトータル人件費の原資にも少なからず影響してくるという問題です。
特に離職率が総じて高い業種や業態に属している会社・法人や、離職者が出ると早急に要員の数合わせをしなければならない業種の場合、その影響は甚大となります。
例えば、診療科や施設形態によって医師・看護師の数が規定されている病院業界や、スタッフの数が足りなくなると売上やサービスレベルに直結する飲食・旅館サービス業などでは、大変なことになってきます。
病院の場合、法律で明確に看護基準が定められているため、速やかに人員補充していかなければならず、少数精鋭でなんとかやり繰りするといった対応は不可能です。
企業が人材紹介会社の紹介を受けて中途採用した場合、採用初年度の想定年収に対して25%~35%の成功報酬手数料を人材紹介会社へ支払わなければなりません。10年ほど前は20%~25%程度が手数料として標準的でしたが、昨今では25%を下限として職種や保有資格の種別によっては35%で設定されているケースも出てきています。仮に手数料が25%としても、想定年収が500万円であれば「125万円+消費税」、想定年収400万円でも「100万円+消費税」を人材会社へ支払うことになります。一人採用するのにこの費用ですから、年間で10人~20人以上となると、中小・中堅企業クラスでは大変な出費です。
以上の点から、経営者は次の事項に留意していくことが肝要です。
ここでは個別企業の事情に即したお話はできませんので、あくまで総論的な考え方としてのポイントを指摘しておきます。
<内部マネジメントについて>
- 適正な離職率にとどめられるように、現場の管理職クラスに対して社員マネジメントに関する指導を徹底していく。
- 従業員から過度な不満が出ないように、人事・評価・給与の仕組みを改定整備していく。
<採用について>
- 従業員から過度な不満が出ないように、人事・評価・給与の仕組みを改定整備していく。
- 一部の特定職種や専門特殊人材は別として、通常の一般社員を中途採用する場合には、自社ホームページや多額の成功報酬手数料を取られない求人媒体・ハローワークなどからの応募で採用できるような体制づくりを行っていく。
ところで、業界団体として「人材紹介会社を通さずに中途採用していきましょう」みたいな紳士協定を取りまとめて何らかの対応策を講じているといったような話はほとんど耳にしませんが、これだけ人材紹介会社が闊歩してくると、そういったことも検討すべきではないでしょうか。
あるいはもう少し踏み込んで、医療従事者など、特定の業界内での転職に限られているケースでは、業界団体独自の人材バンクを設立し、転職希望者がネットを介してダイレクトに応募できるようなシステム[※手数料は取らないかor極力抑える]の構築も検討してみる価値はあると思います。
ちなみに、私が病院の経営幹部として活動していた時には、ホームページの求人サイト上で「人材紹介会社経由ではなく、直接当院へご応募願います!」との記載をしておりました。